本年度、西北ロータリークラブは、幸いにも会長にテーマであります『ロータリーの原点は現場にある』という、素晴らしいテーマで発足致しました。

 先だって、中坊公平さんが、
 「現場に神が宿っている。」と言われました。それほど、私も現場というものがロータリーの主軸であると思っております。
「現場が基本であり、その主軸があって初めて歯車が合うのだ。」そういう事を聞かせて頂いて、感激しておる次第でございます。

 私は、終戦後、軍艦利根より帰還し、漁船にて広島に着きました。
 そこで、まず目に付いたのが、栄養失調の子供達です。私は長年軍艦に乗っておりましたから、いい飯を摂っておりました。
 ところが、広島に上陸した時には、栄養失調の子供、老人ばかりが目に付きます。もう見ていられませんでした。
そして、
「これではいかん。この子供達に栄養のあるものを腹いっぱい食べさせてやりたい。」その心一筋で、現在まで50数年、子供達の飯炊きをしております。その間に、学校を巣立って行った子供達から色んな言葉や感謝状を頂き、それに感動するものであります。

先だっても、
「クラシック音楽をぜひ聴きに来て下さい。」と言われ、前に席に座らせて頂き、コンサートを聴かせて頂きました。
 その子は、ヨーロッパのバイオリンコンクールで優勝した後、京都での演奏会に出演しておりました。割れるような拍手の中、コンサートは終わりました。
そのバイオリンを持ったまま私の側に来て、手を握って、
「在学中は、お世話になりました。アルバイトも無く、親の仕送りも途絶えて、あの食堂で朝昼晩お世話になった事で、今ここに私が居れる事を感謝しております。」と言われました。
 50数年学食をやっておりますと、そういう素晴らしい感動を度々受けております。幸せな男だと思っております。ロータリアンならばこそ、味わう言葉だと思っております。

 現在、食文化の乱れ、飽食の世の中になって、本当にもっと口に入れる物を真剣に皆さんと共に考えたいと思っております。医食同源という言葉がございますが、皆さんご承知の通り、食医、疾医(内科)、瘍医(外科)、そして獣医、この四項目がございますが、全て食から始まっております。
 生まれて乳をしゃぶり、乳にしゃぶりついて美欲を味わい、性欲を覚え、そして仏様になっていく訳です。どんな立派なロータリアンでも、人に食ほど大切なものはございません。
 『食足りて礼節を知る』と、私は小学校で習いましたが、今日の日本に言いたい事は、余りにも飽食に甘えすぎているという事です。

 皆さんご存知だと思いますが、昭和22、3年だったと思います。
マッカーサーとダレス国務長官が日本を去る時に、
「日本人という者は、非常に世界に類のない素晴らしい民族である。何者も日本を征服する事はできない素晴らしい国だ。日本というものは神国と聞いていたが、やはり神の国だ。」こう褒めたたえてダレス国務長官が、ただ一つ誰でも日本を征服できる事がある。その一言は『日本人に物を与えよ』。」
とこの一言を言って日本を去った事は、朝日新聞の昭和22、3年の記録に残っているところであります。
 この日本に物を与えたから、こうなったのではないでしょうか。義理人情浅くなり、日本人古来の大和民族が、外国に笑われるようになってきた。私はこう思っても過言ではないと思っています。

 私の恩師であり、父親のようにお世話になっております伊藤忠商事の瀬島龍三先生が、先だって、私に素晴らしいお手紙をくださいました。
『守一隅照千里』
『人間は、隙間風が必要だ。』
この二言です。
私は、瀬島先生に下手な字で感謝の言葉を差し上げたところ、
「さすが、おまえはネイビーだ。よく分かってくれた。」と大変ほめて頂いた事を覚えております。

 巣立って行った学生の中には、高等学校、大学、そして大学の教授になっても私の食堂でご飯を食べて頂いております。学校の食堂では、「辛い」「甘い」「脂っこい」と好きな事を言っていた子が、卒業すると外食の価格に驚き、私に色々な手紙をくれております。
 儲けようと思って人に喋ると、その人は去るはずです。
まず、奉仕の精神が先で、お金は後に付いてくるものです。そのお陰で友情が生まれてくるという事を味わいながら50数年を過ごして参りました。

 今年、会長が揚げたロータリーの原点『ロータリーの原点は現場にある』というテーマに従い、私は、この一年間、皆さんと共に西北ロータリークラブの為に一生懸命頑張って行きたいと思っております。
 苦労を重ねて、初めて幸福が訪れるでしょう。幾年を考え、深い川の様に音なく静かに流れて行きたいと思っております。
 ご静聴有難うございました。